2019改訂ヌリ課程の解説書から、その性格を見ることを通して、今後韓国でどのような幼児教育が展開されていくのかを考えていきたいと思います。
- 教育課程の性格
- 国家水準の共通性、地域や機間、個人水準の多様性を同時に追求
- 幼児の全人的な発達と幸福
- 幼児中心、遊び中心
- 幼児の自律性と創意性
- 社会全体で実現していく教育課程
- 5つの性格から分かること
- 参考文献
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教育課程の性格
ヌリ課程のもつ性格として挙げられているのは、以下の5つです。
1.국가 수준의 공통성과 지역, 기관 및 개인 수준의 다양성을 동시에 추구한다.
国家水準の共通性、地域や機関、個人の水準の多様性を同時に追求する。
2.유아의 전인적 발달과 행복을 추구한다.
幼児の全人的な発達と幸福を追求する。
3. 유아 중심과 놀이 중심을 추구한다.
幼児中心、遊び中心を追求する。
4.유아의 자율성과 창의성 신장을 추구한다.
幼児の自律性と創意性を追求する。
5. 유아, 교사, 원장(감), 학부모 및 지역사회가 함께 실현해가는 것을 추구한다.
幼児、教師、園長、保護者及び地域社会が共に実現していくことを追求する。
それぞれの項目について、私なりの解釈を加えながら、詳しく見ていこうと思います。
見出しは、ポイントを絞って書いています。また、定義や内容に関しては、原文をそのまま全部日本語訳しているのではなく、大事だと思う部分を抜粋してまとめました。
国家水準の共通性、地域や機間、個人水準の多様性を同時に追求
‘国家水準の共通性‘、’地域水準の多様性’、‘機関水準の多様性‘、個人水準の多様性は、以下のように説明されています。
国家水準の共通性
幼稚園とオリニチプで教育課程を構成、運用する際に考慮しなければならない共通した一般的な基準を意味する。
地域水準の多様性
国家水準の教育課程を基に、各自治体の現状に合わせて特色ある教育課程を運用する。
機関水準の多様性
幼稚園やオリニチプで国家水準、地域水準の教育課程の特徴を反映しながら、各教育機間の教育指針や、園、保護者の特性に合わせて教育課程を自律的に運営する。
個人水準の多様性
教師が見た子どもの姿(発達の実態、興味関心)に合わせて、個人差を教育課程に反映させ、自律的に運営する。
つまり、「教育課程の基準(国家水準の共通性)に従いながら、それぞれ(地域、機間、個人)の現状に合わせ、多様な教育課程を編成、自律的な運営を行っていくことを追求していく」こと、捉えることができます。
これまで、韓国におけるカリキュラム実施においては、”国の定めた基準の充実な実施が重視され、現場の自由裁量は比較的考慮されていない(全,2018)”という指摘があったように、教師は国の定めたカリキュラムの受け手になり、伝達していく役割という側面がありました。
今回の改訂での”各機関での水準の多様性を追求する”というのは、共通した一般的な基準の基に教師が教育課程を運営する、つまり教師は教育課程を作り出していく存在だとというように読み取ることができます。これまでとは違う、受け手から作り手への意識の変化が必要になったと考えられます。
実際のヌリ課程にも、以前の記事で見たような”5つの領域の内容を簡略化”という改訂点にこの内容が生かされています。年齢別に教育内容を決めるのではなく、統一して教育内容を示すことによって、教師が見る子どもの姿に合わせて、教育課程を編成できるようになりました。
実際の保育の現場では、その多様な教育課程を構成していく教師の“自律性”が保育の質を左右していくと言えそうです。
実際に大学院で学んでいるとあるオリニチブで働いている方によると、改訂によって教師の裁量が認められるようになったものの、何をしたら良いか分からないという意見もあったそうです。オリニチプ、幼稚園選びでは園がどのような方針で保育を行っているのか、情報収集が大事になってきそうです。
また、幼稚園教師の自律性については、いくつか論文が出ているので今後どこかでレビューしたいと思います。
幼児の全人的な発達と幸福
全人的は発達とは、”心と体が健康で、自主的で創意的、感性豊かであり、(社会の一員として)共に生きていく人として成長すること”を意味している。幼児が自由に楽しく遊びながら全人的な成長ができるよう、教育課程を構成、運営していかなければならない。
日本でいう「学びに向かう力・人間性等」の内容に近い部分かと思います。
幼児中心、遊び中心
“幼児中心、遊び中心”を追求するということは、ヌリ課程を運営する過程で、幼児の健康と幸福、遊びを通した学びを最大限に尊重し、反映することを意味している。
教師は、幼児の声に耳を傾け、幼児の意見を尊重し反映していく教育過程を構成し、運営していくことが必要である。
何度も出てきていますが、改訂ヌリ課程は“幼児中心、遊び中心”が大きく出されています。これは、幼児が遊びを通して学ぶという価値を尊重していこうという、高まる早期教育への警鐘とも見て取れます。
幼児の自律性と創意性
幼児は自ら自分ができることを行ったり、したいことを選んだりしながら、自分の選択や決定に決めたりする責任を持つ経験を通して自律性を育んでいく。また、好奇心をもって身近な世界に関わることで自分だけの方法で遊びを変えたり作り出したりして創意性を育んでいく。
このような自律性と創意性を育むために、教師は幼児を励ましたり、幼児が自由に自分の考えを表現できるように支援したりしていく必要がある。
幼児が遊びを主導的に進めていくことの重要性がここでも言われています。
社会全体で実現していく教育課程
教師や園長は幼児の遊びを支援する教育課程の主体となり、保護者が教育課程の意味を理解して協力できるように支援していくこと。また保護者は、幼児・遊び中心の教育課程の意味を理解して、幼児が家庭や教育機関で十分な遊びが展開できるように支援することが求めらる。さらに、地域社会は、幼児が豊な経験ができるように、人的、環境的などの支援から教育課程の運営を支援していく必要がある。
教師や園長が主体となり、幼稚園、オリニチプ、保護者、地域社会、それぞれが共に教育課程を動かしていくという認識を強調しています。
5つの性格から分かること
ここまで、ヌリ課程で示された5つの方向性、特徴について見てきました。
項目ごとに教師の役割がはっきり示されたことで、教師の専門職としての側面、そして教師の重要性が同時に強調されたのではないかと思います。
今回は、解説書を中心に内容を確認しましたが、今後、他の文献を合わせながらより考察を続けていきたいと思います。
参考文献
・教育部『2019改訂ヌリ課程 解説書』
・全京和(2018).日本と韓国における幼児教育のカリキュラムに関する比較考察 --「幼保連携型認定こども園教育保育要領 」と「3~5歳年齢別ヌリ課程」を手がかりに--


